「最近、口が臭うんです。年ですかね」——診察室でよくうかがう言葉です。
でも、口のにおいは「年のせい」ではなく、痛みと炎症のサインであることが多いのです。 しかも口の痛みは、食欲が落ちる原因にも、元気がなくなる原因にもなります。 ごはんを食べなくなった、やせてきた——その入り口が、口のなかにあることは少なくありません。
猫が口の痛みで食べられなくなっているときは、数日様子を見ないでください。 猫は食べない状態が続くと、肝臓に負担がかかる病気(肝リピドーシス)のリスクがあります。 「食べたそうに近づくのに食べない」「食器の前で頭を振る」「食べるときに悲鳴をあげる」——こうしたときは早めにご相談ください。
「見た目がきれい」は、根拠になりません
歯周病は、加齢とともに多くの犬や猫がリスクを抱える、とてもありふれた病気です研究報告あり。
そして大切なのは、起きている状態で外から見ただけでは、実際よりずっと軽く見積もられてしまうということです。歯ぐきの奥や歯の根もとで起きていることは、外からは見えません研究報告あり。
とくに猫では、歯が溶けるように失われていく「歯の吸収」という、とても痛い病気がよく見られます。外からは分かりにくく、痛みも隠されがちです。
おうちで見る習慣を、1か月に1回
口のなかを見るコツ
- 明るい場所で、後ろからそっと抱えます
- 上唇を、上に向かってめくります(口を開けさせる必要はありません)
- いちばん見たいのは上の奥歯。歯石、歯ぐきの赤み、腫れを見ます
- 写真を撮っておくと、翌月と比べられます
嫌がるときは無理をしないでください。口は敏感な場所です。痛みがあるときは、なおさら触られたくありません。
歯みがきは「毎日ちょっと」がいちばん
おうちのケアでいちばん効くのは、やはり歯みがきです。ただし、いきなり歯ブラシを口に入れるとたいてい失敗します。段階を踏んでください。
- まず、口のまわりを触られることに慣れる(おやつとセットで)
- 次に、唇をめくることに慣れる
- そのあと、指でこする→ ガーゼ → 歯ブラシへ
週末にまとめてがんばるより、1日1本でも毎日のほうが続きますし、効果も期待できます要確認。
デンタルガムや飲水添加剤は補助として役立つことがありますが、歯みがきの代わりにはなりません。 また、ひづめや硬すぎる骨・おもちゃは歯が折れる原因になることがあります。選び方に迷ったら、かかりつけの先生に相談してみてください。
なお、インターネットで見かける「重曹で磨く」「歯石取りペンで自分で取る」といった方法は、歯ぐきを傷つけるおそれがあり、おすすめできません。
「高齢だから麻酔は無理」と、あきらめる前に
歯の処置の話になると、多くの方が「この年で麻酔なんて」と言われます。お気持ちはとてもよく分かります。
ただ、年齢そのものは病気ではありません研究報告あり。麻酔をかけられるかどうかは、年齢の数字ではなく、心臓・腎臓・肝臓の状態や、ほかに持っている病気で決まります。それは麻酔前の検査で調べられることです。
もちろん、高齢の子には体力の余裕が少ないぶん、事前の検査、痛みの管理、麻酔中の見守り、処置時間を短くする工夫といった配慮が欠かせません。 「できません」と決める前に、まず「うちの子は麻酔に耐えられそうか、検査で見てもらえますか」と相談してみてください。
麻酔をかけない歯石取りについて
「無麻酔で歯石を取ります」というサービスを見かけることがあります。手軽で、体にやさしそうに思えますよね。
けれど見えているところの歯石を取っても、歯周病そのものは治りません。歯周病は歯ぐきの内側と、歯を支える骨で進む病気だからです。 麻酔をかけないと、①歯ぐきの奥の深さを1本ずつ調べること ②口のなかのレントゲンを撮ること ができません。口の腫瘍や、歯の根もとの病気を見つける機会も失われます。動いてしまったときに口のなかを傷つける危険もあります。
こうした理由から、獣医歯科の専門団体は一貫して、麻酔をかけない歯石除去を勧めていません研究報告あり。見た目が白くなることと、痛みが取れることは別のことなのです。
受診の目安
早めに相談を(犬・猫共通)
- 口を気にする、前足で口をこする
- 食べたそうにするのに食べない、片側だけで噛む、かたいものを避けるようになった
- よだれが増えた、よだれに血が混じる
- 口臭が急に強くなった、においが変わった
- 歯がぐらぐらする、抜けた、欠けた
- 顔(目の下・あご)が腫れた、あごの下にしこりがある
猫でとくに
- 口の奥まで赤い、食べるときに悲鳴をあげる、食器の前で頭を振る
- 毛づくろいをしなくなった(口が痛くて舐められないことがあります)
- 食べない状態を、数日様子見しない
犬でとくに
- 顔の片側だけが腫れてきた
- 小型の子で、あごを痛がる・あごの形が変わった
この記事について
本記事は、高齢の犬・猫のケアに関する一般的な獣医学の知見をもとに、獣医師が構成しています。特定の研究・商品・お薬を推奨するものではありません。
※記載の内容は、獣医療の進歩により今後アップデートされる可能性があります。
おもに参考にした文献は次のとおりです。
- 2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats
- WSAVA Global Dental Guidelines(Niemiec BA, et al. JSAP 2020)
- 2023 AAHA Senior Care Guidelines for Dogs and Cats
- American Veterinary Dental College(AVDC)の見解(麻酔をかけない歯石除去について)