最近、息が速い気がする。寝ているときにハッハッとしている。咳が出る。前ほど散歩を歩きたがらない——。 呼吸の変化は、「年のせいでおとなしくなった」と受け取られやすいのですが、心臓や肺、気道の状態を映していることがあります。
そして呼吸は、時間が命を分けることのある領域です。この記事では、いますぐ動物病院に連絡すべきサインと、おうちで数えられる「眠っているときの呼吸数」の測り方を整理します。
次のようなときは、様子を見ずに、すぐ動物病院に電話してください。
- 舌や歯ぐきが白い・紫っぽい・青い
- 肘を張り、首を伸ばして、口を開けたまま座り込んでいる
- 苦しそうなのに立ち上がれない
- 胸とお腹が、シーソーのようにバラバラに動いている
- 咳き込んだあとに倒れた・気を失った
- 猫が口を開けて呼吸している——数分たっても戻らないときは、自己判断せず、動物病院に連絡して判断を仰ぐほうが安心です
苦しそうなときに慌てて抱き上げて走ると、かえって状態が悪くなることがあります。まず電話をして、指示を受けてから動いてください。
おうちで数えられる「眠っているときの呼吸数」
呼吸の相談で、いちばん役に立つ持ちものはおうちの数字です。診察室では緊張で呼吸が速くなってしまうため、ふだんの呼吸数は、実はご家族にしか分かりません研究報告あり。
数え方(1分で終わります)
- 眠って15分以上たって、落ち着いているときに
- 胸かお腹が「上がって下がる」のを1回と数えます
- 1分間(または30秒数えて2倍)
- スマホのメモやカレンダーに、数字だけ書いておきます
眠っているときは、1分間に30回未満がめやすです研究報告あり。
とくに心臓の雑音を指摘されている子では、この数字を続けて記録しておくことに意味があります。眠っているときの呼吸数が繰り返し30回を超えてくるときは、肺に水がたまってきているサインのことがあり、早めの受診につながります研究報告あり。
1回だけ多かった、という日は、夢を見ていたり暑かったりすることもあります。大切なのは「繰り返し超えているか」です。毎日でなくても、週に何回か、同じような時間に数えるだけで十分です。
姿勢が教えてくれること
呼吸が苦しいとき、犬や猫は「楽な姿勢」をとろうとします。その姿勢そのものが、苦しさの強さを教えてくれます一般的な考え方。
- 肘を張って、首を伸ばして座る——気道を広げようとしている姿勢です。横になれずに座ったまま眠ろうとするのも同じ意味を持ちます。
- 胸とお腹がバラバラに動く(シーソーのような動き)——呼吸に余裕がなくなっているサインです。
- じっとして、隠れて出てこない——とくに猫は、苦しさを「動かないこと」で表します。おとなしくなったのではないかもしれません。
「咳が出る/出ない」で心臓の良し悪しは決められません
よく聞かれるのが「咳が出ないから心臓は大丈夫ですよね?」というご質問です。 でも、咳のあるなしで心臓の状態を判断することはできません要確認。近年は、心臓が大きくなることだけでは慢性の咳を説明できない、という議論が続いています。
逆に「咳が出る=心臓が悪い」とも限りません。高齢の犬では、気管や気管支そのものの病気(気管がつぶれやすくなる、気道が弱くなる)が咳の原因になっていることも多くあります。
つまり咳は「原因を調べにいく入り口」であって、それだけで答えは出ないということです。2週間以上続く咳、夜や明け方に増える咳は、一度診てもらってください。
猫では、とくに気をつけたいこと
- 猫は、ふつう口を開けて呼吸しません。犬のようにハアハアするのは、猫では基本的に異常だと考えてください。走ったあとでも、数分で鼻呼吸に戻らないなら受診を。
- 苦しさを「隠れる」で表します。ベッドの下や押し入れから出てこないうえに呼吸が速いときは、我慢の限界に近いことがあります。
- 眠っているときの呼吸数が繰り返し30回を超えるときも、早めにご相談ください。
おうちでできること
- 10〜20秒の動画を撮る——呼吸の様子や咳の音は、診察室では出ないことがよくあります。動画1本が、いちばん強い持ちものになります。
- 眠っているときの呼吸数を記録する——上の数え方で、数字だけメモに。
- 歩ける距離の変化をメモする——「前は30分歩けたのに、いまは10分で止まる」。この変化は大切な情報です。
- 涼しく、静かに——暑さと興奮は呼吸の負担を増やします。体重が増えすぎないようにすることも、呼吸を楽にします。
インターネットには「はちみつで咳が止まる」「加湿すれば治る」といった情報もあります。 けれど原因が分からないまま様子を見ることで、受診が遅れるのがいちばん心配です。まずは原因を調べてもらってから、おうちのケアを組み立てましょう。
受診の目安
すぐに(電話してから受診)
- 舌や歯ぐきが白い・紫っぽい/苦しそうで立てない
- 肘を張り首を伸ばして口を開けている/胸とお腹がバラバラに動く
- 咳のあとに倒れた・失神した
- 猫の開口呼吸が数分続く
- 急に(数時間のうちに)呼吸が苦しくなった
その日〜数日のうちに相談
- 眠っているときの呼吸数が、繰り返し30回を超える
- 2週間以上続く咳、夜や明け方に増える咳
- 散歩で歩ける距離が明らかに短くなった
- いびきが以前より大きくなった、寝入ってすぐ苦しそうに起きる
この記事について
本記事は、高齢の犬・猫のケアに関する一般的な獣医学の知見をもとに、獣医師が構成しています。特定の研究・商品・お薬を推奨するものではありません。
※記載の内容は、獣医療の進歩により今後アップデートされる可能性があります。
おもに参考にした文献は次のとおりです。
- Ohad DG, et al. JAVMA 2013;243:839-843(在宅での呼吸数)
- Ljungvall I, et al. J Feline Med Surg 2014;16:281-290(猫の在宅呼吸数)
- Keene BW, et al. ACVIM consensus guidelines for MMVD in dogs. JVIM 2019